季常磐木の松嵐山舟止め風景 江戸後期文化文政(1804〜1829)
この小袖は幕末の頃最も文化の華が咲き誇った頃の身分の高い御殿女中の衣裳ではなかったかと思われます。この小袖一領には着装者が私共に何かを語りかけてくれます。この文様は「?帽子と馬の轡と竹の鞭」による能の「小督」の物語ではないでしょうか。高倉帝の深い御寵愛を受け琴の名手であったが、時の中宮が平清盛の息女であったが為入道清盛の圧迫に堪えかねて京都嵯峨野の奥に身を隠され高倉帝は日夜嘆いておられ風の便りで小督の局が嵯峨野の辺りに居るとの事をお聞きになり時の皇宮警察部長弾大弼源仲国は勅令により月の明るい暁に嵯峨野を馬で馳せめぐり探しあぐねていますと嵐山大井川の舟つき場近くの法輪寺の辺りで「想夫恋」の琴の音がその音を頼りに小督の局の隠れ家を尋ねあてます。しかし小督は戸を閉じて中へ入れてくれません。侍女の執り成しで対面した仲国は帝の御文を渡しお返事を伺いますと小督は帝の思召しに感泣し・・。ロマンを秘めた物語りを一領の小袖に託した女官の想いが伝わって参ります。
白木染匠資料室所蔵