キモノの格づけ
 長い歴史の中でつちかわれたキモノには、着る時、場所、目的に応じてはっきりとした約束事があります。それをキモノの格づけと呼び、生地の素材や染め、柄、色などによって区別しています。
キモノの格に合わせて、紋のつけ方も変化してきますので、キモノと紋の格のバランスにも気を配り、上手に装いたいものです。

振袖


 キモノの中で最も豪華なのが振袖で、ミスの第一礼装と決められています。袖の長さによって、大振袖(約115センチ・三尺三寸)・中振袖(約105センチ・二尺八寸)・小振袖(約85センチ・二尺三寸)があります。
模様は、絵羽模様という付け方で、キモノの上部は、衿〈エリ〉・肩・胸・袖の縫い目を渡って模様が続いています。下部も、衽〈オクミ〉・脇・背の中心を模様が連続するように配置されています。

昔は黒地の大振袖を花嫁衣裳に用いていましたが、現在では、お色直しの衣裳として色の大振袖を用いることが多いので、友人の結婚式等に召かれた時は、少しひかえめに中振袖にする方が良いでしょう。

また、かつては振袖にも、染め抜き日向五つ紋を付けていましたが、今日の振袖は総模様で多彩な色使いになっていることから、紋を付けても目立たないので、付けなくなりました。振袖は、紋がなくても、ミスの第一礼装として立派に通用します。

振袖に用いる生地は、朱子縮緬〈シュスチリメン〉や紋綸子縮緬〈モンリンズチリメン〉などの、光沢があり、地紋のあるものが多く使われています。

黒留袖
 黒留袖は、ミセスの第一礼装として、格調の高いキモノです。生地は一越縮緬や無地意匠縮緬等、地紋のないものを用いるのが一般的です。
模様は上半身には付けず、衿下〈エリシタ〉から前裾、後ろ裾にかけて、絵羽模様に付けられています。裾回しは、表地が引き返しになっており、表と関連のある模様が付けられます。主に、吉祥〈キッショウ〉文様・有職〈ユウソク〉文様などを組み合わせ、金・銀箔に刺繍などの入った、大変豪華なキモノなので、親族の結婚式等、正式な祝儀の席にふさわしいキモノです。このキモノには必ず染め抜き日向五つ紋を付けます。

※ 以前、黒留袖の下には、白い下着を用いて二枚重ねにして着用していましたが、現在では、ほとんど比翼〈ヒヨク〉仕立てにして着用しています。



色留袖
色留袖は、黒留袖同様五つ紋付き裾模様として、正式なお祝いの場に着用できる色地のキモノです。それと同時に、その華やかな地色と格調高い雰囲気を生かして、略礼装や社交着などに用いることもできる留袖です。
略礼装として用いるなら、染め抜き日向三つ紋にしたり、摺〈ス〉り込み紋にしたりして格を下げて用います。年配の方が摺り込み紋を付ける時は、中陰紋〈チュウカゲモン〉にして用いることもあります。これは薄い地色に濃い色の紋では強くなりすぎるので、印象を柔らげるために、中陰紋〈チュウカゲモン〉を用います。
また、染め抜き一つ紋にして、社交着やパーティ用に着やすいキモノにすることもできます。
色留袖に縫い紋を付ければ、染め抜き紋の時より格は下がりますが、訪問着の代わりとなり、品格もあるので、おしゃれな裾模様のキモノとして気軽に着用できます。



訪問着

 色留袖に次ぐ格のキモノとして訪問着があります。振袖では大げさすぎて、留袖では格式ばっているということから、中間のキモノとして訪問着が作られました。訪問着は、ミス・ミセスの区別なく着用できる絵羽模様のキモノなので、社交着として多く用いられるようになりました。

 訪問着に紋を付けると、やはり格の高いキモノとなります。染め抜き日向五つ紋、三つ紋以外なら、たいていの紋は付けられます。染め抜き一つ紋を付けておけば、親族以外の軽い関係の方の結婚披露宴にも着用できます。
 また、染め抜き中陰三つ紋を付けておけば、ヤングミセスが色留袖の代わりとして、パーティや祝賀会などにも着用できます。

 上半身や袖の装飾としてなら、加賀紋や友禅染紋を、五つ紋・三つ紋・一つ紋など自由に付けることができます。たとえ五つ紋であっても、これは装飾的に用いるものなので、紋の数による格の上下はありません。

訪問着に縫い紋を付ける場合は、一つ紋を付けるのが一般的に多いようですが、キモノの地色と共色薄などの目立たない色系で、三つ紋にすることもあります。

付け下げ

小紋

 付け下げというのは、模様の付け下げのことで、肩を中心に前後とも、模様がすべて上向きになるように付けられたキモノのことをいいます。
 付け下げは、ミス・ミセスの区別なく、気軽な外出着として着用できるので、幅広く活用されています。
 最近の付け下げの模様は、訪問着に近づいてきたこともあり、晴れ着や略礼装に用いることも増えてきました。
そこで紋を付けることも多くなってきました。
 「付け下げは、縫い紋にする方がよい」と以前からいわれていますが、これは、改まりすぎないように、着る機会もなるべく広く持てるように、という配慮から生まれた言葉だと思われます。
 
 小紋は小さい文様が、生地全体に詰まったキモノのことをいい、戦後から江戸小紋の名で親しまれています。
 
 小紋柄には、鮫小紋〈サメコモン〉・小桜・青海波〈セイガイハ〉・霰〈アラレ〉・七宝〈シッポウ〉等、沢山の種類があり、一色染めで表現します。
 また、「渋さが身上の江戸小紋」といわれるように、生地につやがあっては不都合です。そこで、一越縮緬などの縮緬ものが好まれます。年齢による使い分けも、柄よりも色で決めます。

 小紋のキモノに一つ紋を付けておくと、色無地のキモノと同じように、格のあるキモノとして用いられますが、慶弔両用にする場合は、おめでたい柄を避けて選ぶことが大切です。小紋のキモノに紋を付ければ略礼装、紋がなければおしゃれ着として用います。

コート
羽織
 コートはキモノ姿の一番上に着るもので、他家を訪問した時は必ず脱ぎます。コート本来の目的は、防寒・雨具用など実用的に作られたものですが、洋服と同じようにおしゃれ用としても使えます。
 礼装用の振袖や留袖には、キモノの生地に合わせて、紋意匠縮緬や紋綸子縮緬などの重厚感のある地紋の一色染めのものが似合います。
 キモノの模様が華やかなので、コートは柄のないものの方が引き立ちます。
 訪問着や付け下げ、色無地などには、礼装用と同じものでもかまいませんが、他に、ぼかし染めや絵羽模様、模様を紋で表わしたものなども良いでしょう。
 その他の染めキモノには、紋綸子、紋意匠、一越などの縮緬ものの一色染めやぼかし染め、総文、友禅などの模様染めのコートも似合います。一般的に、キモノの柄が大きい時は、小柄な模様のコートを用います。


 女性の礼装は、羽織を着ないのが正しい装い方ですが、黒地に一つ紋の羽織は、慶弔の略礼装として使えます。女性用の黒羽織で五つ紋付のものはなく、日向紋でも一つ、主に中陰と陰の一つ紋を付けるのが一般的です。

 羽織にもキモノと同じように、色無地、絵羽付け、おしゃれ着といったものがあります。
 色無地の場合は紋を羽織のワンポイントにするのもいいでしょう。
 その他の羽織もキモノとのコーディネートで紋有り紋無し等、羽織のおしゃれを自由に楽しむのがいいでしょう。


色無地 黒喪服
 無地の着物は地紋によって、慶弔両方に用いることのできる重宝なキモノです。また、紋が最も効果的に使えるキモノともいえるでしょう。
 一般的に色無地には、紋綸子縮緬・紋意匠縮緬・紋絽〈モンロ〉・紋紗〈モンシャ〉等、地紋のある生地が多く用いられています。
 色無地に紋を付ける場合は、染め抜き日向五つ紋以外ならたいていの紋が付けられます。
 染め抜き日向三つ紋を付ければ、訪問着の一つ紋より格は高くなり、略礼装としてあらゆる席に着用できます。
 地色との対比で、中陰や陰紋を付けるのもいいでしょう。
縫い紋を付ければ、おしゃれ着としても美しく、紋の遊びが楽しめます。

 正式の和装喪服は、ミス・ミセスに関係なく、黒無地に染め抜き日向五つ紋を付けたものを用います。
 生地は羽二重〈ハブタエ〉か縮緬を用い、夏には絽を用います。
 喪服は陰のものだから、紋を付けるのにも陰紋と思われやすいのですが、祝儀、不祝儀の第一礼装には、必ず日向紋を付けるのがしきたりです。

ゆかた
 ゆかたは素肌に着て、木綿の感触を楽しむ夏のくつろぎ着ですから、素足にげたばきが原則です。日本の夏の風物詩として、今後とも長く残ってほしいものです。
 ゆかたのことを中形と呼ぶことがありますが、これは大きな模様や小さな模様に対して中くらいの模様のもの、という意味から呼ばれるようになりました。
 最近のゆかたの模様は、多種多彩になってきていますが、中には絵羽付けした「絵羽ゆかた」なども作られています。
縮〈チヂミ〉・綿絽〈メンロ〉・綿紅梅〈メンコウバイ〉・しじら織・絞りなどのゆかたは、真夏の家庭着として用いられていましたが、いずれにしてもゆかたは夏だけのおしゃれ着なので、すこし派手目のものを選んで楽しく着ましょう。