文様の歴史V 江戸時代(3)


友禅染の展開


友禅染の完成によって、より美しいキモノが作られるようになりましたが、
さらに新しく、美しい文様、デザインが求められてきます。
友禅染は、自由な絵画的表現を題材にしたものが多く、主に自然物からの描写が基本になっています。
季節感のある美しい花や鳥に、由緒や縁のある素材を合わせたり、
故事や物語・詩歌の意味やイメージを背景に持たせたり、
文様以前の教養を必要とするデザインが作り出されるようになりました。
桐に鳳凰・梅に鷲・竹に雀・柳に燕、松竹梅・鶴亀・宝尽くしなどに、
さらに詩歌や物語、調度や風景なども表わされ、デザインの題材は、無限に広がっていきます。


文御所解文様友禅小袖裂(江戸時代中期)
木村染匠所蔵

 茶屋染文様

上の画像の友禅技法は、主に色写し糊と刺繍ですが、このように友禅染は、糊防染による文様染が多く、先行した茶屋染の影響を受けたものと考えられています。
茶屋染は、藍で細やかな文様を表わしますが、この表現に高度な糊防染の技法が駆使されました。文様の部分を残して、地になる部分を全て(裏表とも)糊伏せし、藍瓶で浸し染にしたと考えられています。
文様は、御所解文様と通称されるもので、風景に家屋、草花を添えたものが多く、色彩は藍一色、茶や黄土色がわずかに配され、部分的に若干の刺繍や摺疋田〈スリビッタ〉をほどこすといったものです。
茶屋染に用いられた技術は質・量ともにきわめて高く、現代、復元の試みがありますが、非常に困難だといわれています。
この茶屋染を着用したのは、徳川家をはじめ、武家の女中で、特に身分の高い者は、総文様の帷子〈カタビラ〉を夏の正装に用いました。
友禅染小袖
雪持ち御所解文様

Close-up
江戸後期文化文政(1804〜1829)
白木染匠資料室所蔵


 
江戸後期の御所解風な小袖で何処かの大名家で用いられたものであろう模様は、背を無地に残して下は一面桜菊紅葉と常磐水にからみつく藤により季節的に言えば春と秋雪で冬をあらわし冬でも春でも秋でも着られる小袖でありましょう。
 江戸中期以後の時に御殿風な小袖模様には多く見られるようです この文様の御所車と扉を閉した枝折戸から物語的に説明すれば能の「通小町」の洛北市?野の小野の小町のもとへ九十九夜通いつめた深草少将の話と言えるかも知れません 柴の折戸に高貴な人が訪れたロマンを秘めた文様と言えましょう 


 
紗綾形菊蘭地紋文の綸子に牡丹の折れ枝に檜扇をあしらい、
文字を袖、背、胸もとに散らした小袖です。
 牡丹の花や葉の大部分、檜扇は繍い絞りで白上げとし、或いは鹿の子絞りとして紅に染め、その後繍を加えて模様を引立てた、檜扇は繍と絞りを併用した作品です。
 白上げの花や葉には朱の線描が加えられ、また檜扇にも墨描きがみられるが、これは繍いの下絵かと思われる。
 文字は金糸を駒繍いとして、九重、上天、蓬來殿の三話を表出している。
 この意匠は古典に取材しており、国学の隆昌が一般にも流布浸透していった状況を、
ある意味で示していると思われる一つの資料です。


御所解文様
綸子地檜扇に牡丹文様小袖


Close-up
江戸時代後期
木村染匠所蔵

友禅染近江八景文様(江戸中期)
木村染匠所蔵

近江八景は、琵琶湖から比叡・比良・伊吹・三上・鈴鹿の山並みや湖南の美しさ風土的背景から生れ、室町時代に関白近衛政家が中国の瀟湘八景を模して選んだものです。三井晩鐘・石山秋月・堅田落雁・粟津晴嵐・矢橋帰帆・比良暮雪・唐橋夜雨・瀬田夕照。小袖の芽主の教養を伺い知る事の出来る友禅小袖です。